アパレル業界ではコラボレーション、俗に言うコラボが大きな潮流として定着しつつあります。二つのブランドもしくはメーカーが協同する「ダブルネーム」と呼ばれるものや、アニメなどのポップカルチャーと連動して商品を企画するもの、さらにセレクトショップなどがメーカーに対して特別仕様を別注文する「別注もの」など、その内容は多岐にわたります。
これらコラボに共通するのは、複数のブランドやメーカーが協力して新たな製品を作り上げる、いわば「合作」のプロセスをとるという点です。
一方、他社連携はマーケティングのレベルでも行われますが、そのうち自社のものと合わせて他社の商品やサービスを提供するのがクロスプロモーションです。アパレル業界でもそうした動きは顕著で、今後のアパレルECの将来を占う上で、重要な指針を提供しているように思います。
アパレルECのこれからを視野に入れながら、企業どうしの連携の取り組みについてご紹介してまいります。
アパレル業界のコラボによって表面化する店舗とECの連携の重要性
画像引用元:UNIQLO AND LEMAIRE
コラボのなかでもこのところ顕著なのがファストファションブランドが外部のデザイナーを招き入れ、新製品ラインを展開するというスタイル。その典型的な例といえるのが、「ユニクロ(UNIQLO)」によるデザイナーズ・インビテーション・プロジェクトです。
2006年に「サイ(SCYE)」らとタッグを組んだのを皮切りに、2009年にはドイツ出身の世界的デザイナー「ジル・サンダー(JIL SANDER)」とコンサルティング契約を結び「+J」シリーズを発表。2015年からは「エルメス(HERMES)」などでの仕事で知られる「クリストフ・ルメール(CHRISTOPHE LEMAIRE)」を招き「ユニクロ・アンド・ルメール(UNIQLO AND LEMAIRE)」を提案しています。
これらのコラボは「ユニクロ」にとって、ブランドイメージを高める重要な契機となっている一方で、店舗とECとのより充実した連携の重要性を認識する機会となりました
。2015年の10月8日に発表された8月期の連結業績発表において、柳井正会長兼社長は「ファッションの変化を捉えられず、(中略)ほとんどすべてのコア商品で欠品が起きた」と述べていますが、とりわけコラボで展開されるデザイナーズアイテムは、トレンドを見誤れば大きな損失の原因となりかねません。
それゆえ、店舗への思い切った数量の投入が困難で、最近の「ユニクロ・アンド・ルメール」でも、やはり人気の商品・サイズだけが店舗で早々に完売する光景が見られました。
残念ながら、現状では店舗とECとの連携がよどみなく行われているとは言えません。業績不振のテコ入れとして発動されたルメールとのコラボでしたが、店舗単独でコラボアイテムの販売することの難しさを教えていると言えるかもしれません。
「ユニクロ」と同じように毎年デザイナーコラボレーションを展開するファストファッションブランド、「H&M」は、これまで店舗でのみ商品を販売してきましたが、2016年に日本国内でECサイトを立ち上げることを発表しています。店舗とECとの連携が強化されることで、今後のコラボがどのように展開するのか、注目しておきたいところです。
アパレルメーカーによるクロスプロモーションのプロトタイプ「ビックロ」
画像引用元:pinterest
「ユニクロ」が新宿東口に展開する独自業態の商業施設「ビックロ」は、家電量販店「ビックカメラ」とともに共同出店している大型店舗です。これは、いわゆる協同作業によって二つのブランドやメーカーが「合作」を行うコラボと違い、自社のものと合わせて他社の商品を提供したりディスプレイする、いわゆるクロスプロモーションを実施する店舗として注目を集めています。
写真を撮影する姿や掃除機をかける姿をした特別な9種のマネキンが用意されていて、両社の協同運営フロアとなっているビルの1階だけでなく、「ユニクロ」「ビックカメラ」それぞれが別個にテナントとして入居するフロアでも、「ユニクロ」の服を着たマネキンが「ビックカメラ」が取り扱う電気製品を手持ちするといったプロモーションがなされています。
革新的・実験的な店舗であるため、代金の支払いはそれぞれ別のレジで行わなければならないなど、他社連携ゆえのの制限も多く、必ずしもうまく機能しきれていない面はあるものの、アパレルと家電という異業種がクロスプロモーションを行うためのモデルについて議論するためのたたき台としては、格好の材料と言えるでしょう。
ポップカルチャーとのクロスプロモーションで顧客に寄り添う「H&M」
画像引用元:cutto the blog
先に触れたスウェーデンのファストファッションブランド「H&M」も、ユニークなクロスプロモーションを実施しています。2011年に公開された映画『ドラゴンタトゥーの女(Girl with the Dragon Tattoo)』のために特別に製品ラインを設け、コレクションの発売に合わせて、セレブが集うおしゃれなスポットとして知られるニューヨークのミートパッキング地区(Meatpacking District)にポップアップストアを展開。
映画の世界観をそのまま落とし込んだようなレザージャケットやTシャツ、アクセサリーなど30種に及ぶアイテムは、すべて映画の衣装担当によるデザインというこだわりようです。
ポップアップストアの室内は、「H&M」の新作をまとうマネキンが映画の予告編を流すタブレットを手持ちするなど、念入りに作り込まれていて、映画と洋服それぞれが効果的にプロモーションされました。
ブランド単位ではなく、ポップカルチャーなどを通じた、顧客のライフスタイルに寄り添うプロモーションのあり方が、今後ますます意味を帯びるように思います。
「パートナーシップ」を軸としたアパレルECの今後
一つのアパレルECサイトが多彩なブランドを取り扱うことが当たり前になってきました。この先「ワンブランド・ワンストア」という販売スタイルが古めかしく思え、「専門店」というカテゴリーが意味を失うような時代がやってくるとしたなら、アパレルECにとって、ここでご紹介してきた商品企画やプロモーションのあり方は、より時代に合致した効果的なビジネスのトレンドとなるかもしれません。
例えば、異業種間ECのクロスプロモーションでは、ライフスタイルや趣味・関心ごとといったさまざまな切り口で、消費者の想像力をかき立てるような提案を行うことができるはずです。さらに、優れたコンシェルジュ型のサービスを確立することができれば、「関連商品ファー」をアパレル他社ECサイト間で展開することも不可能ではないはずです。
まとめ
クロスプロモーションをはじめとする他社との連携は、自社の商品について新しい発見をもたらすなど、社内の活性化効果も期待できるでしょう。
いずれにしても、将来的には競合する各社が、よりパートナーシップに基づいた関係へとシフトしていくことが、アパレルECの今後にとって重要となるでしょう。
今後のアパレルEC界の動向を伺いつつ、新たなプロモーションを展開していきましょう。