依然として苦戦を強いられてはいるものの、アパレル業界には常に新たなサービスが提供され、とりわけWeb上では未知のビジネスチャンスへの可能性に開かれている分野でもあります。
そんな新サービスのうち、今回は近い将来、アパレルECにとって新時代到来のメルクマールになりそうな「ファッションレンタルサービス」を取り挙げます。「ファッションレンタルサービス」は、2014年ごろから徐々に登場し始め、ここへきて認知度が格段に広がり、サービス利用者もかなりの数になってきました。
目下のところ、業界全体としては、さほど大きな動きには見えないかもしれませんが、今のうちにぜひとも倣っておきたい、アパレルECにとっての最重要サービスの一つと言えそうです。
コンシェルジュ型サービスで好循環を実現する「エアクローゼット」
画像引用元:airCLoset
国内では最も古くから展開しているものの一つが「エアクローゼット(airCLoset)」。
はじめに複数のコーディネートを見ながら好みのスタイルやカラー、サイズについての情報を登録し、それに基づいてプロのスタイリストの選別による3点の洋服がまとめて手元に届くというサービスです。月額は6,800円で、しかもクリーニングの必要も返却期限も送料もなし。
利用できる洋服のラインナップとしては、いわゆる「赤文字系雑誌」に掲載される商品が大半を占めています。この「エアクローゼット」が面白いのは、好きな洋服を自分で選ぶのではなく、各ユーザーにとって最適な洋服をチョイスしてくれるという、コンシェルジュ的なサービスを提供している点です。
それによって顧客に多少のサプライズを伴う新しい洋服選びの楽しみ方を提案すると同時に、運営側としてはぜひとも避けたい「欠品」や「貸出中」といった事態を決して招くことがないので、アパレルECにとって示唆するところが多い、きわめて洗練されたシステムと言えます。
特化戦略が功を奏す「ラクサス」
次に取り上げたいのが、フランスやイタリアの有名ブランドのバッグをレンタルできる「ラクサス(Laxus)」です。利用額はやはり6,800円で、5,000種類以上の中から好きなバッグを1点選ぶことができます。
予約が可能な品であれば翌日に発送され、返却すれば何種類でも利用することができます。カテゴリー・ブランド・サイズ・カラー別に検索できて、スマートフォン用にアプリも用意されています。数十万円もする高級バッグを手軽に利用できるとあって人気を集めています。
惜しむらくは、人気バッグのあるものはほとんど「貸出中」となっていて、目当てのものになかなかたどり着けないこと。ですが、高級バッグに特化することで多くの顧客を得ることに成功している点は、各アパレルECがこうしたサービスに着手する上で、最もお手本にしやすい事例と言えるでしょう。
「リシェ」に見るO2Oのこれから
Web上で仮登録を済ませ、東京は表参道にある実店舗で好きな洋服を選ぶというユニークなサービスを提供しているのが「リシェ(Licie)」。
アクセスが至便な抜群の立地とブティックさながらの美しい内装の店舗は、月額5,500円で一度に2点までの洋服やバッグ、アクセサリーなどの小物の利用が可能。数千点におよぶ品物は、ドレッシーなワンピースから普段着まで、国内外の有名ブランドを中心とした充実のセレクション。月額500円のトライアルプラン(レンタル期限は1泊2日)が用意されていたり、スタイリストのアドバイスも受けられるというのも嬉しいですね。
他のサービスと異なるのは、利用者は東京近郊に住まいがある人に限定されるのと、2週間のレンタル期限が設けられている点。このように、ちょっと店舗に立ち寄ってそのまま着て出られるという、使い勝手のいいクローゼットを街中に持つという感覚は、アパレルECサイトとの連動をより充実させることで、今後のO2Oの仕組みのあり方を考える上での大いにヒントになりそうです。
持続可能な循環モデルを目指す「サスティナ」
「サスティナ(SUSTINA)」も上で見てきたのと同様の「ファッションレンタルサービス」で、1度に3アイテム利用できるコース(月額4,800円)と5アイテム借りられるコース(月額5,800円)が用意されています。
ユーザーから品物を買い取った品物をレンタルしているという点が大きな特徴で、これは当サイトのコンセプトである「持続可能な(sustainable)」循環モデルにとって有用なシステムで、アイテムのラインナップがやや散漫という印象を受けてしまうのが残念な点です。
これはおそらく7,000以上という膨大なアイテムをディスプレイすることの難しさにも起因していて、非コンシェルジュ型のECサービスが直面せざるを得ない「商品の充実/商品の見やすさ」のジレンマを表しているように思います。アパレルECサイトのこれからを考える上で避けて通ることのできないテーマといえます。
「フレッシュネック」が男性向けサービスの明暗を占う?
現在日本国内で展開されている「ファッションレンタルサービス」のほとんどは女性をターゲットとしたものですが、「フレッシュネック(FreshNeck)」は男性を対象としたサービスの一つ。
これはもともとアメリカで立ち上がったサービスで、2014年に日本に上陸しました。ネクタイ・ネクタイピン・カフリンクス・ポケットチーフなど、ビジネスユースに特化したアイテムを月額3,800円で返却期限なしに利用できます。誰もが知る海外のトップブランドもラインナップされていて、気に入れば最大40%程度の価格で購入も可能。ネクタイを始めとする男性のビジネスグッズは高い需要があるものの、レンタルしてまで利用しようとする人がどれくらいいるのか興味深いところです。
「ファッションレンタルサービス」がまず女性向けのサービスを展開するのは理解できますが、洋服にお金をかけない傾向が強い男性こそ、もしかするとこうしたサービスは相性が良い恐れもあります。そういう意味では、「フレッシュネック」のようなサービスは、男性向け「ファッションレンタルサービス」にとっての試金石となるかもしれません。
「ファッションレンタルサービス」はSNS時代の申し子
資源を浪費するファストファッションと比べて、リユースやリサイクルといった理念に立脚したスタイルが若者の共感を呼んでいることも確かですが、「ファッションレンタルサービス」が今後のアパレルECのありようを考える上で興味深いのは、次の2点に集約できるでしょう。
まずは利用者に洋服に対する所有の概念が伴わないこと。これは洋服を買って数回着用し、不要になればユーズドセレクトショップやネットオークションで売却するという従来からの流れが常態化していたこととも関係していますが、これまでに増して「洋服=ファッション」という考えが強くなってきていることを示しています。洋服はもはや所有の対象ではなく、流れゆくものを「キャッチ&リリース」する感覚とでも言い換えられるでしょうか。
2点目は、こうしたサービスの利用者には「セカンドハンド」という概念があまりなく、また中古品を身にまとっているという意識も持たないことです。もはやレンタルという言葉さえふさわしくなく、むしろ洋服を「シェア」しているという感覚が適切で、まさにSNSの時代だからこそ人気を集めている現象だと言えます。洋服を「シェア」することで新たなサイクルが生まれつつあるということは、洋服を「売る」アパレルECにとって、大きな問いかけとして受け止めるべきでしょう。
「ファッションレンタルサービス」はアパレルECサイト運営者にとって、より小規模な資本で実現可能な極めて効率の良いビジネスモデルであるということも特筆すべき点として挙げられます。
こうした月額制のファッションレンタルサービスにはすでに数多くの企業が参入していますが、5つの代表的なサイトをご覧いただけるとお分かりの通り、アイテムや利用できるブランドはまだまだ限定的です。取り扱うジャンルやサービスの内容によっては、アパレルECサイトがこれから新規にサービスを立ち上げたとしても決して遅すぎるということはありません。
「売る」から「シェア」「レンタル」へと移行するのは簡単なことではありませんが、こうした動きが今後の大きな潮流となることは間違いないはずです。ぜひ参考になさってください。