ファッションECサイト戦略の一つとして、いわゆるメディア化の傾向が目立つようになってきました。
情報発信やコミュニケーション機能の強化によって、ECサイトの間口を広くしようとする動きが流行していると言い換えてもいいでしょう。
単なるお買い物のためのプラットフォームよりも、なにか面白いことを探してふらっとのぞきたくなるような導線を持つサイトの方が、より消費者を誘い込みやすいというわけです。ファッションECサイトをメディア化する取り組みについて、いくつか具体例をご紹介しながら解説していきます。
WebマガジンによってECサイトをメディア化
引用:NET A PORTER
ファッションECがメディア化する例として、とりわけ欧米で主流になっているのが、いわゆるコンテンツの充実によってECサイトをメディア化する動きです。ロンドンを拠点とし、主にラグジュアリーブランドを扱う大手ファッションEC「ネッタポルテ(Net-a-Porter)」などは、サイト内にWebマガジンを掲載。
セレブリティをカバーに起用し、まさに雑誌のページをめくるような感覚で読ませる記事の中で、華麗に商品を紹介していきます。
こうしたタイプのECサイトでは、「ネッタポルテ」のように緻密に編集されたものだけでなく、時事ニュースやトレンドを加味したキュレーション形式でコンテンツが作成されることがあります。
そのため、記事自体が時間を経て鮮度を失ったり、記事で紹介している商品がいずれ販売を終了してしまうことも少なくありません。これはファッションECサイトの場合とくに顕著な傾向であり、大きな弱みとも言えます。
記事をアーカイブする場合、サイトの威信を傷つけないためには、例えば商品のリンクが切れてしまった状態でも、引き続き読み物としてブランディングに役立つようなコンテンツの充実が不可欠になります。
オウンドメディアを活用したECサイト
画像引用元:オンナノコノキブーン
アパレルECサイトには、オウンドメディアの活用という形でメディア化する動きもあります。
例えば「アダストリア(ADASTRIA)」によるブランド「ローリーズファーム(LOWRYS FARM)」が運営する「オンナノコノキブーン」では、公式ルックブックのほか、ショップスタッフによるコーディネート写真や人気モデルを起用したスタイリング、さらに四コマ漫画、キュレーション記事などの情報などを配信。完全な読み物と商品紹介とが混在する「総合情報サイト」となっています。
「ローリーズファーム」はこれとは別にECサイトを運営していて、この「オンナノコノキブーン」は言うなればオウンドメディアという位置づけ。両者間ではコンテンツがかなり共有されており、やや位置関係が混乱している感が否めませんが、InstagramやTwitterなどSNSと連動したキャンペーンを実施するなど意欲的です。
ファッションECサイトにとって、オウンドメディアの有用性を問う一つの指標になるように思えて、今後の展開が気になるところです。
動画コンテンツがファッションECサイトの台風の目に!?
画像引用元:C-Channel
ファッションECサイトのメディア化の今後の方向性として、とても示唆的と思える例を最後にご紹介しておきます。「C-Channel」はモデルやタレントを起用し、ファッションに限らず、グルメや旅行などさまざまな情報を配信する動画ファッションマガジン。
「LINE株式会社」元代表取締役社長である森川亮氏が立ち上げた企業ということでも話題ですね。店舗やヘアスタイルなどを紹介する動画は長いものでおよそ1分程度。とりわけスマートフォンでのユーザビリティが高く、プロによる編集ということもあり、どれもコンパクトにまとまっていて小気味よい。
伝えたい情報を効果的に伝えるという意味では、どことなくテレビを見ているのに似ているけれど、実のところ、まるで違う印象を受けます。PVなどとも違う、軽やかで、ほどよい手作りの質感のなかに、信ぴょう性とか臨場感のようなものを感じとることができるのです。
「C-Channel」自体は今のところECを展開していませんが、ファッションECのメディア化において、SNSの洗礼を受けた、こうした新しいタイプの動画が果たす役割は今後ますます大きくなることが予想されます。
さいごに
画像引用元:L’Atelier
メディア化したECサイトの目的は、あからさまでないにしても、何らかの形で消費者の購買意欲を掻き立てることにあります。しかし、いかにも自社ブランドの商品紹介のようなものでは煙たがられる傾向に。
ファッションに限らず、ECサイトのメデイア化を成功させる鍵は、売りたい商品がはじめにあり、それに肉付けしていくようなコンテンツ作りからの脱却です。
従来のメディアで展開されてきたような広告宣伝の仕組みは、メディア化したECとは親和性が低位という特徴があります。消費者に対して商品の購入を持ちかけるだけの明確なロジックが売る側には構築されていなくてはなりません(たとえそれが見せかけだとしても)。
ECサイト自体が有能な「営業マン」ではなく、よりストアロイヤリティを集めることのできる第三者的なインフルエンサーとして機能することが期待されていると言えるかもしれません。